地域学校協働活動と学校運営協議会との一体的推進による社会に開かれた教育課程の実現に向けて


 皆さん こんにちは。ただいまご紹介いただきました中川でございます。
 早いもので平成29年に告示された新学習指導要領への移行が来年度に迫って参りました。今度の指導要領の目玉はなんと言っても「社会に開かれた教育課程の実現」だと思います。
 本日は、この学習指導要領が目指す社会に開かれた教育課程の実現は、学校運営協議会と地域学校協働活動の一体的推進によってなされるとの思いから私なりの考えをお話し、先生方とともに社会に開かれた教育家庭の実現に向けて考えていきたいと思います。
 はじめに、「地域学校協働活動」とは何かについて見てみます。
 言うまでもなく地域学校協働活動とは、平成27年12月の中央教育審議会答申「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方について」で提言されたものです。この答申を受けてより具体的に地域学校協働活動を定義づけ、推進方策等を説明したのが「地域学校協働活動の推進に向けたガイドライン」です。
このガイドラインの中に、地域学校協働活動とは次のように説明してあります。


 地域学校協働活動とは、「地域の高齢者、成人、学生、保護者、PTA、NPO、民間企業、団体・機関等の幅広い地域住民等の参画を得て、地域全体で子供たちの学びや成長を支えるとともに、「学校を核とした地域づくり」を目指して、地域と学校が相互にパートナーとして連携・協働して行う様々な活動」としています。
 さらに、「地域による学校の「支援」から、地域と学校のパートナーシップに基づく双方向の「連携・協働」へと発展させていくことを目指していることです。地域が学校・子供たちを支援するという一方向の関係だけではなく、子供の成長を軸として、地域と学校がパートナーとして連携・協働し、互いに膝をつき合わせて、意見を出し合い、学び合う中で、地域の将来を担う人材の育成を図るとともに、地域住民のつながりを深めることにより、自立した地域社会の基盤の構築・活性化を図る「学校を核とした地域づくり」を推進し、地域の創生につながっていくことが期待されます。


 この説明からもわかりますように、地域学校協働活動とは、地域と学校が連携・協働して、地域全体で未来を担う子供たちの成長を支えていくそれぞれの活動を総称したものです。連携・協働する枠組みとしては、地域の高齢者、成人、学生、保護者、PTA、NPO、民間企業、団体・機関等、幅広い住民等の参画が望まれます。
 具体的活動としては、学校支援活動、放課後子供教室、土曜日の教育活動、学びによるまちづくり、地域社会における地域活動等、幅広い地域住民等の参画によって行われる様々な活動を指します。
 それぞれの地域や学校の実情や特色に応じ、多様な活動を推進することが期待されています。
 このような地域学校協働活動が今、なぜ、提唱されたのでしょうか。大きなくくりで言いますと、教育の視点からの地域創生です。持続可能な社会づくりのための教育の場からのアプローチです。
 これからの時代はどんな時代となるのでしょうか。よく言われていますのは、AI社会、ソサイアティ5.0という言葉がありますね。そして、グローバル社会であり、産業構造が大きく変化していく時代だと言われています。
 アメリカのキャシー・デビッドソン氏は、「2011年度にアメリカの小学校に入学した子供の65%は、大学卒業時、今は存在していない職に就くだろう。」と言っています。 野村総合研究所は、「今後10から20年以内に日本の労働者の約49%の仕事が、ロボットや人工知能の発達により代替できるようになるだろう。」と予想しています。
 このような時代に生きる子供たちの学習の指針であります新しい学習指導要領には、「社会に開かれた教育課程」の実現が提唱されています。
 学習指導要領前文には、


 教育課程を通して、これからの時代に求められる教育を実施していくためには、よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携及び協働によりその実現を図っていくという、社会に開かれた教育課程の実現が重要となる。


と述べています。
 この新しい学習指導要領の実現に向けて、法も整備されました。
 一つは、平成29年3月の地教行法の改正(29年3月)です。市町村教育委員会に対して、学校の運営及び運営に必要な支援に関して協議する学校運営協議会の設置努力義務を課しました。そして学校運営協議会委員に「地域学校協働活動推進員その他学校の運営に資する活動を行う者」を追加しました。これは、学校運営協議会と地域学校協働活動の一体的推進により、社会に開かれた教育課程の実現を図るためです。
 二つは、同時期での社会教育法の改正です。地域学校協働活動を法律で定義づけしました。そして、地域学校協働活動を継続的に推進する地域学校協働活動推進体制の整備を明示しました。その担い手となる地域学校協働活動推進員の委嘱も明示しました。
 このような教育改革が推し進められているのは、先ほども触れましたように持続可能な社会づくりを教育の分野から推し進めることをねらったものです。
 先生方は、日本創生会議が2015年に発表した報告書の中に「896問題」というのがあるのはご存じでしょう。何も手を打たなければ数十年後には896の自治体が消滅するだろうというものです。人口減少時代と言われて久しいですが、首都圏の一極集中はますます進んでいます。少子高齢社会も進んでいます。ですから、国を挙げて持続可能な社会づくりの施策を行っています。先ほども触れましたように地域学校協働活動は教育の分野の施策の一つです。
 とはいうものの、地域学校協働活動は突然登場したわけではありません。昭和40年代、社会教育の現場から「学社連携」が提唱されましたが学校側は、これに応えませんでした。平成になって「学社融合」が提唱され、学校教育と社会教育が一体となって子供の学びや育ちを支援する取組が少しずつできてきました。そして、「開かれた学校」が提唱され学校と地域が連携して子供たちを育てていきましょうという機運が生まれてきました。平成14・5年頃、子供たちの安全・安心を脅かす事件があり、「学校支援地域本部事業」が展開され、「地域学校協働活動」へと発展したのです。簡単に概観しましたように、社会の変化を踏まえた学校と地域の連携・協働についての考え方や社会教育分野や学校教育分野における施策や取組を踏まえて、今後の地域と学校の在り方を示す概念として提案されたものです。
 この概念で最も大切なものは、「支援」から「連携・協働」へ、「個別の活動」から「総合化・ネットワーク化」です。
 連携・協働については、「地域学校協働活動の推進に向けたガイドライン」によりますと、


 地域による学校の「支援」から、地域と学校のパートナーシップに基づく双方向の「連携・協働」、すなわち、互いの役割を認識し、共通の目標に向かい対等な立場で共に活動するかたちであり、地域と学校でどのような地域をつくっていくのか、どのような子供を育てていくのかという将来構想や、それに基づく目標、計画を共有し、地域と学校がパートナーとして連携・協働していくこと。


と定義付けています。
 また、個別の活動から総合化・ネットワーク化とは、新しい学習指導要領のカリキュラムマネジメントに例示してあります「教科横断的カリキュラム編成」に通じるものがあると私はとらえています。
このようなことから、連携・協働とは、社会教育関係者と学校教育関係者の連携・協働を導く概念でもあるということです。
 この地域学校協働活動を多様で継続性のあるものとするために、先ほど申しましたように平成29年3月社会教育法が改正され、地域学校協働活動推進体制の整備が規定されました。推進体制として、市町村教育委員会が「地域学校協働本部」を設置するようガイドラインでは示しています。これによりますと、地域による学校の「支援」から、地域と学校双方向の「連携・協働」の推進及び「個別」の活動から「総合化・ネットワーク化」へと発展させるために、コーディネート機能と多様な活動、継続的な活動ができるような機能を持たせることが示されています。詳しくは、後刻資料をご覧ください。さらにこの事業を推進していく要として地域学校協働活動推進員を委嘱できることもうたっています。現在、益城町3人、、甲佐町2人、山都町6人の推進員が委嘱されています。各教育委員会では、全町をカバーするために推進員を増やす準備をしています。学校には、地域連携協働担当者を校務分掌に位置付けるよう求めています。
 私は、地域学校協働活動推進員も地域連携協働担当者も学校と地域をつなぐコーディネート機能ばかりではなく、押し売り、御用聞き、仕掛け人としての機能が求められていると思います。
 学校の地域連携協働担当者は、現状では、教頭または主幹教諭、教務主任の先生方が兼務していらっしゃると思いますが、一人の先生に負担をかけるより、チームとして担当することの方がより効率的であると思います。チームとして担当するのは教員の働き方改革の視点からも大切なことだと思います。現在、御船小学校は、教頭先生・担当の先生・事務の先生がチームとして地域連携協働担当を担っています。教頭先生は地域との連絡調整、先生は校内の連絡調整・記録、事務職員の先生は学校支援ボランティアの対応を担当していらっしゃいます。このように役割分担することも大切なことと思います。さらに、御船小学校では、地域コーディネーター、つまり学校と地域や団体との窓口となる方を校長先生の名前で2人依頼してあります。
 お一人は、長年町の社会教育委員を務めていらっしゃる方です。この方は、地域の各種の情報をお持ちです。もうお一人は、元PTA副会長さんです。PTA関係の人材はこの方が受け持っていらっしゃいます。学校から「○○の学習を支援する方を紹介ください」旨のファックスが地域コーディネーターに届きます。コーディネーターはその依頼に応じた人材を学校へ提供します。学校は提供された情報を元に学習支援の計画を立てます。このような地域や団体の窓口となる人が大勢いらっしゃると、例えば、昔遊びだったら老人クラブ、地域の歴史であったら郷土史家の方に情報提供を依頼することができますので学校は、負担を少なくすることができます。
 また、七滝中央小学校では、地域学校協働活動年間計画に基づき、学習応援団運営会議、コーディネート会議と同じ働きですがこの会議を年3回開き、各地区(旧校区)で学習応援団ボランティアを受け持っています。これは、先生方にとっても地域の方にとっても計画的に学習支援ができるという大きなメリットがあります。その前提には、「地域学校協働活動年間計画」と「打ち合わせカード」を作成して置くことが必要となります。
 来年度から「社会に開かれた教育課程」が実施されます。社会に開かれた教育課程の実現のために、学校運営協議会と地域学校協働活動の一体的推進が言われています。このことについて、考えてみます。
 学校運営協議会を設置している学校をコミュニティ・スクールと称することは先生方ご承知の通りです。


 コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)は、学校と地域住民等が力を合わせて学校の運営に取り組むことが可能となる「地域とともにある学校」への転換を図るための有効な仕組みです。コミュニティ・スクールでは、学校運営に地域の声を積極的に生かし、地域と一体となって特色ある学校づくりを進めていくことができます。

 学校運営協議会の主な役割として、
  ○ 校長が作成する学校運営の基本方針を承認する。
  ○ 学校運営に関する意見を教育委員会又は校長に述べることができる。
  ○ 教職員の任用に関して、教育委員会規則に定める事項について、教育委員会に意見を述   べることができる。
  ○運営への必要な支援に関して協議する。


 上益城管内でのコミュニティ・スクールの状況は、御船町と甲佐町は、今年度から全ての学校に国版(地教行法に基づく学校運営協議会)のコミュニティ・スクールを立ち上げています。益城町は、益城中央小学校のみ国版で他は益城版コミュニティ・スクールですが、令和2年度から国版へ移行予定です。山都町は、全ての学校が熊本県版です。嘉島町は、現在熊本県版ですが、令和2年度から国版へ移行予定です。
 熊本県版と国版の違いはどのようなものがあるでしょうか。
 コミュニティ・スクール導入目的は、人口減少社会、少子高齢社会にあって持続可能な社会の実現、地方創生を教育の分野から推し進めるものです。県版は、委員を校長先生が依頼され、ボランティアの委員です。国版は、地教行法で定める趣旨に添って教育委員会規則で学校運営協議会を設置している学校です。ですから、委員の任命権者は市町村教育委員会です。これに伴い、委員は、各自治体の非常勤の特別職となり、委員には、責任と義務が課されます。校長が示す学校運営の基本方針を承認する権利があること、承認することによって委員にも学校運営の方針に迫る責任が生じることから方針に迫るための教員の任用等に関する意見具申ができること、教育委員会や学校に対して当該校の運営について意見を具申できることが挙げられます。また、当該学校に関する情報等について口外しないよう守秘義務が生じます。ボランティア委員と違って、非常勤の特別職となることから、これまで以上に学校運営に関心を持ち、学校課題解決の方策を考え、実行に移すことから地域とともにある学校づくりがより一層推進されるようになります。
 このことを地教行法では、次のように規定してます。


第四十七条の六 

 1.教育委員会は、教育委員会規則で定めるところにより、その所管に属する学校ごとに、当該学校の運営及び当該運営への必要な支援に関して協議する機関として、学校運営協議会を置くように努めなければならない。ただし、二以上の学校の運営に関し相互に密接な連携を図る必要がある場合として文部科学省令で定める場合には、二以上の学校について一の学校運営協議会を置くことができる。

2.学校運営協議会の委員は、次に掲げる者について、教育委員会が任命する。

  一 対象学校 の所在する地域の住民
  二 対象学校に在籍する生徒、児童又は幼児の保護者
  三 社会教育法第九条の七第一項に規定する地域学校協働活動推進員その他の対象学校の運営に資する活動を行う者
  四 その他当該教育委員会が必要と認める者


 平成29年までは、当該学校の運営に関して協議する機関でした、平成29年3月末の改正により「当該運営への必要な支援」について協議することが加えられました。つまり、学校の課題解決方策や学校支援方策を協議する場となったのです。
 新たに委員として「社会教育法第九条の七第一項に規定する地域学校協働活動推進員その他の対象学校の運営に資する活動を行う者」が加えられたのは、学校運営協議会での支援に関する協議の結果を地域学校協働活動に確実につなげることで、学校が必要とする支援を効果的に実施する態勢を作り上げるためです。
 文部科学省が示した図にはこのことがわかりやすく説明してあります。

講演・講話


 新しい学習指導要領への対応は、学校で議論されていることと思います。
 文部科学省の新しい学習指導要領の考え方は、次の通りです。


 ①社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。
 ②これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自分の人生を切り開いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと。
 ③教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じ込めずに、その目指すところを社会と共有しながら実現させること。



 学習指導要領が目指すところは、学習指導要領前文で次のように記しています。


 教育課程を通して、これからの時代に求められる教育を実施していくためには、よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携及び協働によりその実現を図っていくという、社会に開かれた教育課程の実現が重要となる。


 「これからの時代」ってどんな時代でしょうか?
  少子高齢社会、グローバル社会、ソサイアティ5.0、このような社会が唱えられています。
 「よりよい学校教育」ってどんな教育でしょうか?
  道徳教育の教科化、外国語教育の導入、プログラミング教育の導入等学習内容の多様化、郷土史家や職業人等専門的知識技能を有する人材とのTT、個に対応する指導等々が考えられます。
 「よりよい社会」ってどんな社会でしょうか?
  持続可能な社会、生涯学習社会、人権共存社会、これもいろいろな社会像が考えられます。
 「資質・能力」って何でしょうか? 学力ではなく資質・能力と表現しています。
  問題解決能力、論理的思考力、コミュニケーション能力、挑戦する力、想像力等が挙げられます。通産省では、起業を志す人にはこのような資質能力が必要だが、これからはこれらの能力は起業を志す人ばかりでなくすべての人に求められるといっています。
 文部科学省では、資質・能力の3つの柱として次のことを挙げています。


  学びに向かう力 人間性等 
   どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか
  知識・技能
   何を理解しているか 何ができるか
  思考力・判断力・表現力等
   理解していること・できることをどう使うか


 「社会との連携協働」ってどうして進めていくのでしょうか?
  学校運営協議会や地域学校協働本部、あるいはコーディネート会議、PTA総会等での熟議を通して推進していくものと思います。
 平成31年度熊本県義務教育課の取組の方向では、次のように示しています。


○社会に開かれた教育課程の実現
 (1)各学校で育成を目指す資質・能力を子供、家庭、地域及び関係機関等で共有し、連携・協働することによりその育成を図っていく学校指導体制の構築を推進する。
 (2)教育目標の実現に向けて、教科等横断的な視点から教育課程を編成し、実施・評価・改善を行い教育活動の質の向上を図っていくカリキュラム・マネジメントを確立し、学校総体とした 取組の充実を 図る。
 (3)地域の人的・物的資源を有効活用し特色ある教育活動を展開し、コミュニティ・スクール等の導入や学校評価の充実を図り、地域とともにある学校づくりを推進する。
 (4)社会的・職業的自立の基盤となる資質・能力や態度の育成に向け、教育課程全体を通じて体系的・系統的に取り組み、キャリア教育の充実を図る。


 社会教育課では、次のように述べています。


 ○地域学校協働活動の推進

 (1)全小中義務教育学校における組織的かつ継続的な地域学校協働活動の実施のため、地域と学校の連携の基盤である地域学校協働本部の整備を促進するとともに、地域学校協働活動推進員の配 置及び育成を推進する。
 (2)「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて、地域学校協働活動とコミュニティ・スクールの一体的推進体制構築のため、研修等の充実を図るとともに、県統括コーディネーターの積極的活用を推進する。
 (3)地域の教育力の向上を図るとともに、多様な地域学校協働活動や放課後子供教室、地域未来塾などの充実のため、ボランティアチームやくまモン先生の派遣等を行う。


 上益城教育事務所取組の方向では、次の通りです。


 育成したい資質・能力を明確にし、「社会に開かれた教育課程」の実現を目指す学校指導体制の構築を推進する。


 指導要領では、カリキュラム編成の視点として、地域の人的・物的資源を活用した教育課程編成を挙げています。
 地域の人的・物的資源を活用した教育課程編成のためには、地域学校協働活動の年間計画が必要です。指導要領では、カリキュラム編成の視点として教科横断的視点からのカリキュラム編成を掲げています。この教科横断的視点と相通じる視点から考えますと、これからの地域学校協働活動は、行事的活動から連続性とストーリーのある活動へと向かうと思います。連続性とは、1学年1年間の連続性、或いは小学校6年間の連続性、中学校3年間の連続性、さらには小中学校9年間の連続性が考えられると思います。ストーリーとは、学校で学んだ成果を地域で発揮する、地域で経験したことを元に学習課題に取り組む等が考えられます。学校の社会参加につながると思います。
 さらに、社会に開かれた教育課程の実現を目指して行われる地域学校協働活動は、担任の先生と学習支援ボランティアが指導目標、つまり本時で身につけさせたい力を共有して学習にあたることから、先生と地域住民がチームを組んで行うチームティーチングだと思います。
 益城中央小学校では、傾聴ボランティアといって地域の方が授業に参加し、子供たち一人一人の発表を聞いてもらっています。学校が地域の方に求めているのは、①よく聴く、②認めてほめる、③子供の話を聞いて一つだけは質問する、④教えるのは先生が教えるので地域の人が教えるのはノー、この4点です。地域の方は教えはしませんが、子供の話をよく聞いて認め、褒めて子供たちのやる気を引き出しています。そして、何か一つ質問することによって子供たちの思考や表現を深めています。
 傾聴は、国語や算数その他の教科で実践されていますが私は総合的な学習の時間の深まりに適していると思います。
 総合的な学習の時間の目標は次のように示されています。


 探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
( 1) 探究的な学習の過程において、課題の解決に必要な知識及び技能を身に付け、課題に関わる概念を形成し、探究的な学習のよさを理解するようにする。
 (2) 実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする。
 (3) 探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに、互いのよさを生かしながら、積極的に社会に参画しようとする態度を養う。


 学校の社会貢献、社会参加が求められています。この社会貢献を目指す学習方法の一つとして「サービスラーニング」に取り組んでいる学校があります。
 サービスラーニングを文部科学省は、次のように定義しています。


 教育活動の一環として、一定の期間、地域のニーズ等を踏まえた社会奉仕活動を体験することによって、それまで知識として学んできたことを実際のサービス体験に活かし、また実際のサービス体験から自分の学問的取組や進路について新たな視野を得る教育プログラム。


 サービスラーニングの指導過程は、1問題把握、2問題分析、3意志決定、4提案・参加としています。
 先進事例をご紹介します。
 小学校4年社会科の実践例です。

「生活に結びつくゴミの分別たんけん隊」

学習段階 学習活動の概要 学習活動の展開
Ⅰ.問題把握 家のゴミの出し方を振り返り,横浜市のごみ減量政策に対する関心を高める。
第1時:4月1日から家でもゴミの分別をしているのかな。
Ⅱ.問題分析 ゴミの出し方,ゴミの収集の仕方,清掃工場の仕組みなど,廃棄物処理に関する
社会の仕組みを理解する。
第2時:家のゴミの出し方を調べて話し合おう。
第3時:集めたゴミはどこへ行くの。
第4時:清掃工場を見学してみよう。
第5時:見学したことを話し合い,実際のゴミの量を調べよう。
Ⅲ.意思決定 「ゴミの分別」に焦点を絞り,地域の人々から聞いた話などに基づいて,ゴミ処理
の方法について自分なりの考えを持つ。また,地域の人々が計画的・協力的に
ゴミ処理に取り組んでいることに関心を高める。
第6時:地域のゴミステーションを調べ話し合う。
第7・8時:分別は厳しすぎるか必要か話し合う。
第9時:働いている人の考えや収集のようすを取材しよう。
第10 時:収集している人に話を聞こう。
Ⅳ.提案・参加 「地域のために自分たちにできること」を考える中で,地域の人々が計画的・協力
的にゴミ処理に取り組んでいることに理解を深める。また,子供自らが実際にゴミ
処理に関する社会的な活動を参加するとともに,そこで考えたことを振り返る。
第11 時:地域のために自分たちにできることを話し合おう。
第12 時:自分たちの計画を地域の人にも聞いてもらおう。
第13 時:地域のためにできることを計画しよう。
第14 時:実践し地域の人の感想を聞いて活動を工夫しよう。


 もう一つは、中学校2年数学科「1次関数」の実践例です。

「コミュニティバスの運行計画の提案」

学習段階 学習活動の概要 学習活動の展開
1 問題把握  民間のバス会社が経営上の理由で撤退した後、コミュニティーバスがお年寄りにとっては、
欠かせない交通機関である実態を知る。
 バスの運行には、最低1日何名以上の乗客が必要なのか。運行上の規制はあるのかな
どについて理解する。
 より便利な運行計画を立てることが、お年寄りにとっても、バスの運行団体にとっても必要
であることを知り、その改善に興味を持つ。
第1時:病院でのお年寄りへのインタビューのVTRを見て、コミュニティーバスの必要性を感じとる。
 コミュニティーバスの運行のために必要な1日の最低乗客数を運営団体の方から聞く。
第2時:運行計画提案までの計画を立てる。
Ⅱ 問題分析 老人ホーム、病院、銀行、郵便局、市役所の支所に、アンケート用紙を置かせていただき、
コミュニティーバスの利用状況及び利用希望の時間帯と希望経路について把握する。
第3時:各施設に出向き、アンケートの目的を話し、協力を依頼する。
 お年寄りから必要性について、インタビューを通して直接聞く。
第4時:アンケートを回収し、停車位置ごとの乗車希望時間と乗客数をまとめ、表を作成する。
Ⅲ 意志決定 現在運行している運行計画用のダイアグラムを作成し、乗客数と各乗客の持ち時間を計算し、状況を知る。
 利用希望者の要望を基に運行計画を改善し、新たなコミュニティーバスの運行計画を立案し、ダイアグラムを作成する。
第5 時:表のデータを使って、バスの時速とバス停間の距離を基に、現在運行している計画に従って、ダイアグラムを作成する。
第6時:利用希望者の希望を基に運行計画を改善し、新たなコミュニティーバスの運行計画を立案し、ダイアグラムを作成する。
Ⅳ 提案参加 コミュニティーバスの運行団体に、アンケート結果と運行計画のダイアグラムを持参し、運行
時間と運行経路の変更を提案する。
 新たな運行計画が、地域に受け入れられ、お年寄りにとって、よりよく改善されているか検証する。
 学習した内容について、発表することで、地域社会の一員としての役割を果たしたことについての自信を深める。
第7時:新たなコミュニティーバスの運行計画を提案し、そのダイアグラムを運行団体に提出する。
第8時:新たな運行計画の施行後、各施設に出向き、よりよくなったかを調査する。
第9時:この学習で学んだことについての発表会の準備をする。
第10時:発表会を実施する。


          
 いずれの実践も子供たちのつぶやき、家庭で話題となっている地域の生活課題を先生が取り上げ、その課題に関する情報収集、課題分析、課題解決方策検討、解決方策提供です。
 これは、総合的な学習の時間の目標であります、 実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現し、積極的に社会に参画しようとする態度を養う、にぴったり一致します。
 学習方法は、地域の課題を聞き取ったり、地域の方からのアドバイスをもらったり、地域と連携協働した学習を展開しています。
今回の学習指導要領は、子供たちがふるさとに愛着を感じ、ふるさとを誇りに思い、ふるさとの将来を背負って立つ人材となることを目指したものです。
 学校と地域の特性を生かし、それぞれの学校で社会に開かれた教育家庭の実現がなされることを祈念して、話を終わります。ご静聴ありがとうございました。